結婚と出産は「高所得層の特権」になった…日本の少子化を深刻化させる「世帯年収600万円の壁」の分厚さ
これでは子供以前に結婚を諦めてしまう
荒川 和久
コラムニスト・独身研究家
裕福でなければ子どもを産めない時代
貧乏子沢山という言葉があります。
確かに、出生率の国際比較においても、発展途上の低所得国ほど高いのですが、それは、医療インフラの未整備や栄養状態の問題によって乳幼児死亡率が高いことによります。いわば、たくさん産んでもたくさん死んでしまうという多産多死のステージにあるがゆえの事象です。
しかし、現代先進諸国においては反対で「経済的に裕福でなければ子どもを産めない」と言えるかもしれません。より正確に言うならば、「経済的に裕福とまではいかなくても、ある程度の基準以上の稼ぎがなければ、子どもを産むという動機以前に結婚ができないし、結婚したいという希望すら持てなくなる」のです。
それを如実に語る残酷なデータがあります。
厚労省の2021年「国民生活基礎調査」において、世帯別の所得階級分布を調査したものがありますが、その中から、高齢者世帯を除いた現役世帯総数の所得分布と児童のいる世帯(ここでいう児童とは18歳未婚の未婚者)の所得分布を比較したものが図表1です。
立ちはだかる「世帯年収600万円の壁」
一目瞭然ですが、「児童のいる世帯」は世帯所得600万円以上がもっとも多く、約66%を占めます。うち1000万円以上の所得世帯も25%もあり、400万円未満の比率はわずか12%です。一方、現役世帯総数で見ると、600万円以上の世帯は半分に満たない48%に過ぎず、むしろ400万円未満の世帯合計比率は約3割にもなります。つまり、「児童のいる世帯」のほうが相対的に経済的に豊かな層が多いことになります。
もちろん、世帯所得600万円ですら決して余裕があるとは言えませんが、「児童のいる世帯」の所得中央値は718万円で、児童がいる世帯の半分が718万円以上の世帯所得があることになります。ちなみに、現役世帯総数のそれは591万円と600万円に達していません。
結婚には「個人年収300万円の壁」というものがありますが、子育てにも「世帯年収600万円の壁」というものがあるのでしょうか。逆に、世帯所得400万円に満たない世帯では、そもそも出産も結婚もかなり難しくなります。
よく婚活のネット記事などでは、結婚相手の男性の最低年収が500万円とかいわれますが、この実際のデータを見れば、仮に妻の自分がパートなどで200万円稼いで、やっと「児童のいる世帯」の中央値に達すると考えれば、希望としてはあながち無謀とは言えないのかもしれません。しかし、残念ながら、それが婚活の現場では、「限りなく不可能な現実」であることも確かです。
子を産む以前に結婚自体を諦めてしまう
厚労省の2021年「第10回21世紀成年者縦断調査」(対象29~38歳独身男性)によれば、初婚のもっとも多い年齢帯である29~38歳独身男性の年収のボリュームゾーンは240万~300万円に過ぎず、480万円以上の年収はたったの6%しか存在しないからです。
とはいえ、「世帯所得600万円なら、夫婦300万円ずつでも達成可能ではないか」という指摘もあります。数字上は確かにそうでも、いざ出産・子育て期において、夫の一馬力にならざるを得ないケースも多々あります。子を産んだとたんに、所得が半減してしまうのではとても怖くて産めないという人もいることでしょう。
要するに、現在の日本においては、「児童のいる世帯」の中央値718万円とまではいわなくても、せめて600万円以上の世帯所得が、子を産むひとつの基準となります。多くの若い独身男性からすれば、「一体いつになったらその基準を自分は超えられるのだろう」と思ってしまうかもしれません。むしろ「今の仕事でそんな額になることはとても無理だから結婚なんて諦めよう」と思う人たちも出てきます。それが、現状の日本の婚姻減少「諦婚化」の土台にあります。